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post to my website in 2022.3.27  平津 豊  Hiratsu Yutaka

磐座の分類

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イラスト 瑠璃さん

はじめに

本記事は、『イワクラ学初級編』平津豊著、ともはつよし社(2016)より抜粋してお届けしています。


磐座の分類-1   鳥居龍蔵の分類 

【Basic knowledge6】
「磐座」の分類は、先人達によって試みられています。
■鳥居龍蔵
鳥居龍蔵は、日本にまだ考古学という学問が無かった時代に人類学者として、台湾、中国、モンゴル、朝鮮、シベリア、そして日本各地を調査しました。
その調査の中で、巨石遺跡の探索も実施しました。特に、遼東半島の析木城(せきぼくじょう)で2基の支石墓(しせきぼ)を発見し、朝鮮半島の南部に伝播するにつれて、支石が低くなっていくことを解明しました。
そして、鳥居は、「磐座」に対して、海外の巨石文化論に基づいた分類を行ないました。
一本の立石を立てたものをメンヒル、数個の支石の上に天井石を乗せたものをドルメン、天井石を2枚以上乗せたものをツムルス、岩石を環状に並べたものをストーンサークルなどと分類しています。これは形態による分類です。
なぜ鳥居がこのような言葉を用いたかについては、人類学の先駆者でありイギリスへの留学経験のある坪井正五郎の影響を強く受けていると考えられます。
この鳥居の用法は、「磐座」を研究する人達に好んで使用されています。これは、支石墓とか環状列石というような考古学者の手垢がついた言葉より、ドルメンとかストーンサークルという言葉の方が、「磐座」の持つ魅力を表現するのに適しているからでしょう。




◆写真 韓国のドルメン


磐座の分類-2   大場磐雄、小野真一、藤本浩一の分類

【Basic knowledge7】
■大場磐雄
鳥居龍蔵の門下の大場磐雄は、『磐座・磐境等の考古学的考察』や『祭祀遺蹟』の中で、石それ自身を神として崇拝の標的とする場合を「石神」、神霊の憑リ坐し給うと観じて敬仰する座石を「磐座」、石を並べて神域とするのが「磐境」と分類しています。
これは機能による分類です。特に、磐境について、何々磐座神社は『延喜式』に数多く存在するが、何々磐境神社は見られないことから、磐境は臨時的に作った一つの神聖な区域であろうと述べています。

■小野真一
小野真一氏は、大場磐雄に師事し、祭祀遺跡について研究されました。
『祭祀遺跡』の中で、古墳時代の祭祀遺跡の存在する場所を山麓、峠、平野、水中、海浜・島嶼(とうしょ)の5つに分類しています。これは祭祀遺跡の分類ですが、「磐座」の分類にも応用できるものです。
また、金谷克己氏が『古代祭祀遺構』の中で分類したものを修正して、古墳時代の祭祀遺構を敷石遺構、組石遺構、立石遺構、磐座遺構、祭祀土壙と分類しています。さらに、この中の磐座遺構は、巨石(岩)、大石(人頭大位)、円礫(小石)と分けています。これは、形態による分類です。
小野真一氏は、立石遺構はほとんど自然のものが多く石神として祀られたもの、磐座は横長・扁平のものが多く、自然に存在した巨石と人為的に安置したものがあるとも書いていますが、組石、立石、磐座の判別が明確ではありません。

■藤本浩一
藤本浩一氏は、関西を中心に「磐座」のフィールドワークをされた方ですが、『磐座紀行』の巻末の全国磐座一覧表で、約300もの「磐座」を現地調査し、「現状」、「神座」、「位置」、「信仰」の項目で分類しています。
「現状」は、神職常住・構築本格的な社、身舎一間以上の社、身舎一間以下の社、拝殿だけあって本殿を不詳、鳥居だけあって祠なし、仏をまつる堂宇、何もない岩だけの存在、の区別で、「磐座」と神社の関係を示しています。「神座」は、神体山・神奈備山など、岩・巨岩・石が群集している、巨岩約3メートル以上、岩1~3メートル、1メートル以下の石、神木とされている木、の区別で、「磐座」の形態を示しています。「位置」は、独立の山・山中に磐座がある、山地の部分的に張り出した端山、頂上部にある、中腹にある、山麓にある、約50メートル以下の小山、平坦地、その他・河畔・海辺など、の区別で、「磐座」の立地を示しています。「信仰」は、常に参拝者が絶えない社、比較的よく参拝される、祭礼・参拝もある、まれに参拝するものもある、信仰的な形跡は絶えている、の区別で、「磐座」の信仰程度を示しています。「磐座」を形態、機能、立地など総合的に分類しようとしたものです。



◆写真 兵庫県芦屋市 白山の磐座


磐座の分類-3  イワクラ学会の分類

■イワクラ学会における分類
2004年に創設されたイワクラ(磐座)学会における「いわくら」の定義は、「イワクラとは、縄文時代から古墳時代にかけて形成された巨石遺構をさす。その時代時代の人間が何らかの意図を持って、その目的や役割に合致するよう磐を人工的に組上げ、あるいは自然の磐そのものを活用したものと定義している。その中でも、特に神社のご神体となっているものを「磐座(いわくら)」「磐境(いわさか)」と呼んでいる。わざわざのカタカナ表記は共通名称としてイワクラ学会が提示していることである。」となっています。
これまで述べてきたように、「磐座」は『古事記』『日本書記』に登場することから、岩石信仰、岩石祭祀、神道の中で捉えられ、分類や研究が行なわれてきました。
しかし、神社が祀っていない岩石や、考古学が祭祀跡と認めない岩石の中にも、人の手が加わったものや人々が特別視したものが数多くあります。
イワクラ学会は、このような岩石を研究対象に積極的に含めるために、新しくカタカナの「イワクラ」として定義しました。
エジプト、イギリス、南米などに存在した巨石文明が古代の日本にも存在したのではないか、という考えがイワクラ学会の根底にあります。
この壮大な考えに対して「磐座」という言葉では、あまりにも窮屈なので、神の依り代としての岩石や信仰対象としての岩石を「狭義のいわくら」として、漢字で「磐座」と表現し、人工的に組上げたり配置されたりした岩石を「広義のいわくら」として、カタカナで「イワクラ」と表現することにしました。
イワクラ学会が提唱する「磐座」と「イワクラ」の関係をもう少し説明するために、四象限マトリクスで考えてみます。
縦軸に人の手が加わっているかいないか、横軸に祭祀されているかいないかをとって四象限に分けると、祭祀されていない自然の岩石(第三象限)は、ただの岩石です。学問としては地質学の研究対象です。祭祀されている自然の岩石(第四象限)は、「狭義のいわくら」つまり「磐座」であり、磐座信仰が行われ、代表的なものは神道の宗教施設として組み込まれている岩石です。学問としては民俗学の研究対象です。祭祀されていない人の手が加わった岩石(第二象限)は、「岩石遺構」であり、学問としては科学的アプローチをすべき対象です。信仰されている「磐座」の中にも人の手が加わっている岩石もあります(第一象限)。祭祀されているので「磐座」となりますが、人工の部分については科学的アプローチも必要です。「イワクラ」の定義としては、狭義の「磐座」と「岩石遺構」を含めて、第一象限、第二象限、第四象限を広義の「イワクラ」といいます。
このように岩石に対する科学的研究と民俗学的研究が、著者が提唱するイワクラ学です。


◆イラスト 平津豊作図


Study03 磐座と神社変遷へ


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